
こんな人に観てほしい:そういうんじゃない、と自分にも言い聞かせている人

異性の友達がいる人。あるいは、いた人。
付き合っているわけでもないのに、部屋に上がってくることを互いに何とも思っていない相手。向こうはこちらを男だと思っていないから、平気で無防備な格好で来る。こっちも、そういうんじゃないから、と口に出して、実際そう思い込むことに成功している。楽です。気を使わなくていい。ただ、その関係、たぶん一生そのままです。
厄介なのは、その線引きが一方通行だということ。相手が線を引いてくれているから安心して近づけるのに、近づけば近づくほど、こちらだけが線を意識するようになる。男っぽいよな、と言い続けているのは、半分は自分に言い聞かせるためだったりする。
この作品は、その線が消える瞬間だけを、ひたすら丁寧に撮っています。しかも消え方が最悪です。線を引いていた側が、先に崩れる。糸井瑠花さん演じる幼馴染が、その崩れ方を見せてくれます。
あらすじ:「だから今日からここが瑠花の銭湯ね」

家の給湯器が壊れてお湯が出なくなったから、お風呂を貸してほしい。近所に住む幼馴染の瑠花から、そういう連絡が来る。前提はこれだけです。
制服のまま部屋に上がってきた彼女は、床に座って一方的に喋り続けます。シャワーが急に壊れたこと。修理は頼んだけれど一週間は使えないこと。昨日から頭も洗えていないこと。父親は銭湯に行くと言っているが、ここからは遠いこと。そして勝手に結論を出します。
「だから今日からここが瑠花の銭湯ね」
許可を取る気がゼロなんですよ。この部屋久しぶり、懐かしい、いっぱい遊んだよね、と散らかった部屋を見回して、ついでに「相変わらずお片付け苦手なんだね」と笑う。実際、床には脱ぎっぱなしの服が転がっている。この遠慮のなさが、そのまま二人の距離です。風呂道具は持ってきたから大丈夫、と言い残して彼女は浴室へ消えていく。
ところが、すぐ呼ばれます。「ごめんお風呂セット忘れた」「こっち持って来て」。頼まれた通り、袋を届けにいくだけの用事でした。
そして脱衣所の引き戸の前で、手が止まる。
見どころ1:「もうあかん」

すりガラスの引き戸を、指先で細く開けます。隙間の向こうに、赤い浴槽に浸かった彼女がいる。バレるかバレないかの緊張だけが続く。この覗きが、うしろめたくなるくらい長い。そして見えてしまったものが、想像していた男友達の体とは、まったく別物だった。
さらに厄介なのは、この後です。風呂から上がった彼女は、水色のキャミソールとショートパンツ姿でした。髪はまだ湿っていて、頬も首も風呂上がりで赤い。そして、明らかにブラをつけていない。
なのに本人はまるで気づかず、久しぶりの部屋ではしゃぎ始めます。なんか面白いものないの、エッチな本とかあるんでしょ、絶対あるでしょ、どこに隠してるの。部屋のあちこちを物色して、しまいには四つん這いで顔を突き出してきて、こう詰め寄ってくる。
「ほらこっち見て」「ちゃんと私の目見て」「エッチな本はどこに隠してるんですか?」
見られるわけないんですよ。前かがみになったキャミの中が、こちらからは全部見えているので。目を見れば、そのすぐ下が視界に入る。かといって逸らせば、話を聞いていないのがバレる。この地獄みたいな二択を、彼女は完全に無自覚で突きつけてくる。
やがて話題は明日からの期末テストに移ります。数学がわからない、計算得意だったよね、教えてよ。当然こちらは上の空です。そして「ねえ聞いてる?」「どこ見てんの?」で、彼女が視線の先に気づく。
「え、ノーブラってこと?」
ここからの弁明が、火に油なんですよ。「そんなん当たり前じゃん」「寝るときとか苦しいじゃん」。理屈としては完璧です。完璧なぶん、こちらの想像だけが具体的になっていく。そして彼女は言い添えます。「そんなとこ見てたの?」「いつも私のこと男っぽいって言ってるくせに」——自分からその話を持ち出したせいで空気が変わったことに、まだ気づいていない。
そこで、こらえきれなくなります。彼女は本気で拒みます。ここが長い。「そういうのじゃないじゃん」「もうやめて」「ダメだよ」「ちょっとだけとかないから」。そして繰り返し出てくるのが、この一言です。
「女として見てないっていつも言ってるよ」
言ってるよ、じゃないんです。言われてきた側が、それを根拠にして自分を守っている。こちらが自分に言い聞かせるために口にしていた言葉を、彼女は防波堤として使っている。ここで初めて、あの口癖の残酷さが分かります。
拒絶は続くのに、途中から別のものが混ざり始めます。「気持ちいいけど」。「こういうのってもっといい雰囲気にしてからするもんでしょう」。もう、やめてほしいのか手順の話をしたいのか分からない。そして、防波堤が決壊する音がします。
「もうあかん」
……関西弁です。ここまで彼女は一度も崩していません。完璧な標準語で喋り続けていた。それが、この一言で剥がれる。しかも直後に、関西弁をちょっと直していたのに、という意味のことをこぼすんですよ。普段は意識して直している。つまりこれは作った顔の下にあったものだという告白です。私はここで声が出ました。攻略のフラグが立ったんじゃない。素が漏れただけなんです。
見どころ2:「男の子扱いせんといてな」

普通、こういう作品はここで終わります。落ちた、はい終了。でもこの作品、落ちてからのほうが長い。そして落ちた後の彼女が、想像とはまるで違う方向に走り出します。
床で繋がって、事が済んだあと。ベッドに移った彼女が、ふふ、と笑いながら条件を出してくるんです。
「ちゃんとこれから女の子として見てくれる?」「男の子扱いせんといてな」
笑っているのに、要求の中身はまるでふざけていない。関西弁のまま、関係の作り直しを迫ってくる。事後にですよ。寝てから交渉が始まる。しかも中身が、女として見ろ、です。さっきまで「女として見てないっていつも言ってるよ」を盾にしていた人が、同じ論点を真逆の向きで突きつけてくる。この反転の速さに、こっちの脳が追いつかない。
そこからは、ずっとねだられ続けます。好きって言って。いっぱい可愛いって言って。それで、こちらが可愛いと返したときの反応がこれです。
「初めて可愛いって言ってくれたね」
……初めて、なんですよ。何年も一緒にいて、一度も言われていなかった。この一言を聞いてから振り返ると、さっきの「男っぽいって言ってるくせに」が、まったく違う音で鳴り始めます。あれ、怒っていたんじゃない。ずっと待っていた側の言葉だったんです。
パイズリの最中に、彼女は昔の話を持ち出します。こんなに大きくなったの、びっくりした? そして、こう言うんです。
「いつまでも子供じゃないんだよ」「意識してたから見てたんや」「変態やな」
責めているのに、声が完全に弾んでいる。関西弁で「変態やな」と言われるとき、そこには軽蔑の成分がゼロなんですよ。むしろご褒美です。しかもこの人、こちらがいつから意識して見ていたか、全部分かった上で言っている。
そして極めつけが、順番が入れ替わるところ。口でされたあと、彼女のほうからこう言って、自分で跨ってくるんです。
「ちんちんで気持ちよくなりたい」「入れてもいい?」
腰を落としながら、ちゃんと見て、好きって言って、と繰り返しねだられる。押し倒したはずの側が、いつのまにか動かされる側に回っている。主導権が入れ替わった瞬間を、体位そのもので見せつけてくるわけです。ここで腰の奥を持っていかれない人がいたら、たぶん本編を観ていません。
最後に:「じゃあ明日からも毎日来るね」

締めが、また性格が悪いんですよ。
もともとお風呂を借りに来たのに、また汗だくになっちゃった。一緒にお風呂入る? そう誘われて、二人で浴室に移ります。泡だらけの手で洗われ、しゃがんだ彼女に見上げられながら口でされ、立ったまま繋がる。中出しは八連発。途中から、何回目かはどうでもよくなります。
そして最後、胸に垂れたものを流しもせず、彼女はこう切り出します。
「でも、本当にこういうつもりじゃなかったんだよ」
そりゃそうです。風呂を借りに来ただけだった。でも、と彼女は続けます。
「でもまだ一週間お風呂使えないから、明日も来てもいい?」
いいよ、と答える。すると彼女は、この作品でいちばん子供っぽい一言を返してきます。
「やった」「じゃあ明日からも毎日来るね」
……伏線、回収です。冒頭で勝手に宣言された「今日からここが瑠花の銭湯ね」が、一週間分の予約になって戻ってくる。あの一方的な決めつけが、最後には二人の合意になっている。給湯器が直るまでの日数が、そのまま関係の残り時間として置かれて、作品は終わります。
観終えたあなたはきっと、しばらく、男っぽいよな、という言葉が使えなくなります。誰かに向けてそれを言ったとき、相手が何を我慢して笑っているのか、想像がついてしまうから。そして、給湯器が壊れた、という話を誰かがしていたら、続きが気になって仕方なくなります。
