
こんな人に観てほしい:職場の頼れる先輩の、家での顔を想像したことがある人へ

職場に一人はいるでしょう。仕事ができて、面倒見がよくて、後輩の小さな手柄を自分のことのように喜んでくれる先輩。そして、薬指に指輪をしている先輩。あなたはその人を尊敬している。尊敬しているからこそ、ほんの一瞬だけ、考えてしまったことがあるはずです。この人は家に帰ったら、どんな顔で、どんな声で、誰に甘えているんだろう、と。
考えても仕方のないことです。答えを知る方法は、普通はありません。
この作品は、その答えを見せてしまいます。しかも、いちばん見てはいけない形で。先輩が夫にだけ見せてきた顔を、夫と間違えられたまま、一晩まるごと浴びることになる。
まず、とことん甘やかされたい人。この先輩は、酔ってはいても乱暴ではありません。キスをして、胸を差し出して、次はこれ、その次はこれ、と、慣れた手順で世話を焼いてくる。気づけば、こちらは何もしなくていい。休日の朝、台所から味噌汁の匂いがしてくる、あの感じです。ただし出てくるのは味噌汁ではない。
次に、大きな胸に埋もれたい人。作品説明にもあるIカップを、彼女は惜しまずに使います。顔を覆われ、挟み込まれ、口元へ運ばれる。胸の出番が多すぎて、途中から胸が第二の主演に見えてきます。
そして、甘いだけでは終わらない話を観たい人。朝に待っている会話は、ちょっと胸に刺さります。私は刺さりました。
逆に、最初から最後まで幸せなだけの恋人同士を浴びたい人には、朝の場面が重いかもしれない。この作品の甘さには、最後に、苦い理由がつきます。その理由まで含めて、この先輩を見届けたい人に観てほしい。
あらすじ:会食の帰り道、先輩は後輩を夫と取り違えた

目が覚めると、見知らぬ部屋のベッドの上。隣で眠っているのは、会社の先輩の七緒さん。しかも裸。飲みすぎた。ここはどこだ。なぜ七緒さんがここにいる。自分はここで何をしている。頭が追いつかないまま、主人公の記憶は前の日の昼にさかのぼります。
彩月七緒さんが演じる七緒さんは、主人公の職場の先輩です。黒いスーツに社員証を提げて、後輩の企画が商品化されたことを、よく頑張ったね、と褒めてくれる。「そんな可愛い後輩のためなら」上司に根回しだってする、と冗談めかして笑う。取引先からの電話には丁寧に応じ、続けてかかってきた出張中の夫からの電話には、無事に着いたのか、こっちは台風の影響はなかった、気をつけてね、と声をやわらげる。最近は夫の出張が多くて大変みたい、と後輩に話してから、仕事の顔に戻る。
その夜は取引先との会食です。十九時に赤坂。二次会の手配まで確かめて、先方は外国の方でお酒が強いから飲みすぎないようにしないと、と自分に言い聞かせる。そして次の瞬間、でもまあ明日は土曜日だし、いっか、と気をゆるめる。私はここで嫌な予感がしました。明日が休みだという事実ほど、人間の自制心を溶かすものはありません。
会食は和やかに終わります。ところが二次会のラウンジで、二人は先方に乗せられて、ウイスキーを飲みすぎてしまう。主人公は、泥酔した七緒さんを家まで送ることになる。「自分の足で歩けるもん」「あんなウイスキーで酔っ払ってないから」。酔っていない人は、この台詞を言いません。部屋に着くなり暑いと言い、「水持ってきて、水」とグレーのソファに倒れ込む。
そして、そばにいる主人公に向かって、あなた、と呼びかける。どこ行くの、と引き留めて、顔を寄せてくる。
七緒さんは、主人公を夫だと思っています。ここから先、朝まで、主人公はずっとあなたと呼ばれ続ける。その夜に何が起きるかは、あなたが観てください。
見どころ1:夫のための「好きなやつ」が、全部こちらに降ってくる

夜の部屋で、七緒さんは白いシャツとグレーのタイトスカートのまま、仰向けのこちらに跨ってきます。会社で見たのと同じ服です。それなのに、会社では一度も聞いたことのない声で、大好き、と言う。「あなたもっと舌出して」と、キスの深さまで指定してくる。今日は飲みすぎちゃった、と言い、久しぶりだね、と言う。
私はこの、久しぶり、を聞き流しました。聞き流すべきではなかった、と分かるのは朝になってからです。
シャツのボタンを外していく指に、指輪が光っている。ブラを外して、あなたの大好きなおっぱいだよ、と差し出してくる。そして言うんです。「好きなやつやってあげるね」。
何が始まるのかと思ったら、七緒さんは自分の胸を持ち上げて、自分の乳首を、自分で舐めてみせる。それから、もう片方をこちらの口元に運んでくる。私は一瞬、何を見ているのか分かりませんでした。分かった瞬間、顔が熱くなった。たぶんこれは、この夫婦のあいだでお決まりの流れなんです。「あなたこれ好きだったでしょ」と当たり前のように確かめてくる声が、それを物語っています。
行きつけの店で、いつもの、と言うと黙って出てくる一皿があるでしょう。あれを、店に初めて来た客が受け取ってしまった。しかも店主は、常連だと信じて疑っていない。これほど居心地が悪くて、これほど美味しいものはありません。
ズボンを下ろした七緒さんは、手でしごきながら言います。「あなたこんなに硬かったっけ?」。続けて、「今日は一段と硬いね」。比べられているのは、こちらと、ここにいない夫です。私は嬉しいのか申し訳ないのか、分からなくなりました。胸が顔の上に覆いかぶさってくる。毛布を頭からかぶったときの、自分の息でこもる温かさ。あれの、やわらかくて重いやつです。果てそうになると、まだダメだよ、とあっさり止められる。止められて、また胸が降ってくる。
脚のあいだに下りた七緒さんは、口でこちらを受け止めて、飲み込んでしまう。「すっごい今日濃いね」と笑う。まだ硬いと分かると、「あなたの大好きなおっぱいで挟んであげようか」。胸のあいだに沈められて、おっぱいで出してもいいよ、「見ててあげるから」と見上げられる。この、見ててあげる、が効きます。見守られながら果てるのは、甘やかされることの最終形態です。
それでも終わらない。続きはベッドで、と誘われた先で、七緒さんは脚を開いて自分で触り、「もっと見て」とこちらの目を求める。顔の上に腰を下ろして舐めさせ、キスをしながら「私の味がする」と言う。こちらの脚を持ち上げさせ、そのあいだに入って胸で挟み込み、これが気持ちいいんでしょう、「私知ってるよ」と言う。知っているのは、夫の好みです。こちらのことは、何も知らない。知らないのに、全部当たっている。
そして騎乗位。「我慢できない」と言って、自分から迎え入れる。ゴム?と聞き返したきり、つける気配はない。「久々だね」と息を吐いて、こう言うんです。
「あなたのいつもより硬い」
いつもより。その、いつも、の中に、こちらはいない。私はこの一言で、座っていた椅子から少し腰が浮きました。褒められているのに、盗み聞きをしている気分になる。汗で前髪を額に張りつかせた七緒さんは、何度も果てては腰を振り直し、あなた大好き、と繰り返す。最後は仰向けになって受け入れて、「まだ中で動いてるよ」と呟き、眠いと言って目を閉じる。
一晩のあいだ、こちらは最後まであなたのままでした。
見どころ2:朝、呼び名が「君」に変わる

夜が明けます。窓から光の入る寝室で、髪を下ろした七緒さんが目を覚ます。隣のこちらを見て、最初の言葉がこれです。
「なんで君がここにいるの?」
あなたが、君、になった。たったそれだけで、部屋の温度が変わります。主人はどこか、と訊き、こちらも裸だと気づき、「夢じゃなかったんだ」と呟く。君のことを旦那と間違えて、エッチしちゃったってことだよね、と自分で口に出して確かめ、やっちゃった、と声を上げる。「私結婚してるんだよ」。
ここまでは、予想どおりの朝です。予想を裏切るのは、ここから。
こちらがまだ硬いままなのを見て、七緒さんは言います。「昨日のこと思い出したら硬くなっちゃったの?」。責める声には聞こえません。困っている声です。そして「もう一回したら落ち着いてくれるの?」と訊き、こうなったのは私のせいだ、と言う。「本当はダメだけど」と続けながら。
私はここで、会社での七緒さんを思い出しました。後輩の手柄を喜び、後輩のためなら根回しもすると言っていた人です。この人は朝になっても、先輩でした。後輩の不始末を、自分の責任として引き取ってしまう。
ゴムは持っているのか、昨夜もつけていなかったのか、と確かめて、「中には出しちゃダメだよ」と念を押してから、七緒さんは自分から腰を下ろします。髪を下ろした顔が、眉を寄せたまま近づいてくる。昨夜あれだけ舌を出せ、もっと見ろと指示していた人が、今朝は、ダメだよ、そんなに硬くしないで、と言いながら、止まらない。そして果てたあとで謝るんです。「私ばっかり気持ちよくなってごめんね」。
夜は指示、朝は謝罪。同じ人の同じ体なのに、使う言葉がまるで違う。夜のあいだ、七緒さんは妻として振る舞っていた。朝の七緒さんは、ただの一人の女性として、困りながら感じている。私にはこちらのほうが、ずっと生々しく見えました。
そしてこちらは、念を押されたのに、中で果ててしまう。「すごい中でドクドクしてるんですけど」。怒るより先に呆れている、そんな声に聞こえる。ここで笑っていいのか分からない。でも少しだけ笑ってしまう。この、笑っていいのか分からない感じが、朝の場面の味です。
最後に:甘さの理由は、朝の終わりに明かされる

終わったあと、七緒さんは言います。「これっきりにして」。結婚しているのにこんなことをして、ごめんね、と。
ここまでなら、よくある一夜の過ちの話です。でも七緒さんは、その先を口にする。夫が、自分のことを家族としてしか見なくなってしまった、と。
「女性として見てくれないの」
この一言で、私の中で昨夜の全部が裏返りました。久しぶりだね。久々だね。あなたの大好きなやつ。見ててあげるから。あれは全部、行き場のなかった言葉だったんです。本当は夫に向けたかったのに、向ける場所がなくなっていた甘さを、七緒さんは酔った一晩で、間違った相手に全部注いでしまった。こちらが受け取ったのは、ほかの誰かに渡すはずだった贈り物でした。
そして、七緒さんは続けます。これ以上こんな関係を続けたら、と。
「私、君のこと好きになっちゃうよ」
一晩じゅう、好意はすべてあなたに向けられていました。君に向けられた好意は、この一言が最初です。そのすぐあとに、「だから忘れて」「勝手でごめんね」が来る。初めて自分に向けられた好意と、忘れてという頼みが、同じ息で届く。
この作品を観終えたあと、あなたはきっと、明日の職場で誰かの薬指を見てしまうでしょう。その人が家でどんな顔をしているのか、もう想像しなくていい。代わりにあなたは、別のことを考えるはずです。忘れて、と言われたことを、どうやったら忘れられるのか。
私はまだ、忘れられていません。
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