
こんな人に観てほしい:あなたにだけ特別、という言葉に毎回まんまと弱い人へ

行きつけの店で、店員さんが小声で、本当はダメなんですけど、と一品おまけしてくれた。それだけで、その店の味が三割増しに感じた経験はありませんか。
私はあります。しかも、おまけの中身はほとんど覚えていない。覚えているのは、声を落とした瞬間の顔と、周りに聞こえないように少しだけ身を乗り出した距離のほうです。人は、特別扱いそのものより、特別扱いを二人で隠している時間に弱い。
この作品は、その弱点を最初から最後までつつき続けます。舞台は、マジックミラー越しに女の子を選べるリフレ店。個室の壁には盗撮禁止の貼り紙、部屋の奥には、ミラー越しに覗いていた待機室。大きな声を出せばすぐ外に漏れる場所で、桃乃木かなさんが、店の決まりをひとつずつ内緒で破っていく。
大声の喘ぎより、耳元の「声出ちゃう」に興奮する人。過激なプレイより、許しが一段ずつ下りてくる過程を味わいたい人。そして、ガラス越しに眺めるしかなかった相手が、最後に自分だけに笑いかける展開に弱い人に観てほしい。
逆に、最初から激しい絡みを浴びたい人には向きません。前半の約二十分、彼女は一言も喋らないし、本番も声を殺したまま進みます。ただ、その我慢こそがこの作品のエンジンです。
あらすじ:ミラーの向こうで選んだ子が、規則の外へ連れ出してくれる

主人公がいるのは、暗い小窓の前。窓の向こうはピンクのカーテンと黄色いソファの待機室で、女の子たちがくつろいでいます。向こうからこちらは見えない、という建前の部屋です。
桃乃木かなさんが演じる女の子は、ツインテールに、青い透けたセーラー風の衣装と白いニーハイ。小窓の前のピンクの椅子に座ると、声を出さないまま脚を開き、背を向け、胸元をはだけていく。言葉の代わりに使うのは、手書きのボードです。「たくさん見ていってね」。カードには「ナイショ!!」。最後は「今日はありがとう」に、できれば指名してほしい、という一言を添えて、鞄を持って部屋を出ていきます。
もちろん指名します。白い壁の狭い個室に入ってきた彼女は、黒い猫耳のヘッドドレスに、白いレースの透けたトップへ衣装替えしていました。本指名のお礼を言い、無料オプションの頭撫でを勧め、お兄さんがかっこいいから「緊張して噛んじゃった」と打ち明ける。
ここまでは、可愛いリフレ嬢の普通の接客です。
ところが彼女は、本当は料金が発生するけれどお兄さんには特別で、と言いながら、店の決まりをひとつずつ外していきます。生のパフォーマンス、胸、下、キス、手、添い寝、口。そのたびに声をひそめ、待機室を気にし、内緒だと念を押す。そして最後には、決まりのいちばん外側まで進んでしまう。
見どころ1:「ガラス越しじゃない」の一言で、前半の焦らしが回収される

正直に言います。前半を観ている間、私は少し焦れていました。彼女は可愛い。脚を開くし、透明なディルドを舐めて胸に挟むし、ディルドを口元に寄せたまま、ボードに書いた「かおに出して」を見せてくる。でも声がない。聞こえるのは、キスのような音だけ。水族館の大水槽の前で、イルカに手を振られている気分です。可愛いのに、ガラスが一枚ある。
個室に移って、彼女が生パフォーマンスの注文を受けた瞬間、その焦れが全部ひっくり返りました。さっきガラス越しに見せたパフォーマンスを、今、目の前でやり直すと言うんです。そして「ガラス越しじゃない」「私の生のおっぱい」と、自分から見せてくる。
これ、ずるくないですか。前半の焦らしは、この一言のための前振りだったんです。さっきまで窓の向こうで小さく見えていた胸が、今は触れる距離にある。しかも彼女自身が、その差をわざわざ言葉にして差し出してくる。
彼女は、さっき窓の前で何を想像していたかまで見抜いています。この胸に挟まれるところを思い浮かべながらしていたんでしょう、と言い当てて、両手で寄せてみせる。そのあとも、「本当はこんなに見せることないんだけど特別ですよ」と、特別を惜しみなく重ねてくる。
ここから、触れる許可が少しずつ下りていきます。胸を揉ませながら「でもあんまり触っちゃうと声出ちゃうかも」「声出そうになったら止めてくれますか?」「ちょっとだけですよ」。下も触りたいのかと聞き返して、「絶対内緒ですよ」「ちょっとだけなの」。言っている内容はブレーキなのに、口にするたびに一段ずつ先へ進んでいる。踏んでいるのは、どう聞いてもアクセルです。
そして私がいちばん笑って、いちばん心臓に来たのがキスの場面です。「キスしちゃいますよ」と顔を寄せたあと、彼女は思い出したように「ラップキスだったね」「生でしちゃったね」と言う。どうやら本来は、ラップ越しのキスという決まりだったらしい。ガラスの次はラップ。この店は、二人の間に挟む薄い膜の品揃えがやたら豊富です。そして彼女は、その膜を自分で一枚ずつ外していく。「生でしちゃったことは絶対内緒だよ」と言った直後に、「じゃあもう一回だけ」。
内緒にする理由を作った本人が、内緒の量を増やしていく。あなたは、このペースについていけますか。私は無理でした。
見どころ2:声を出せない本番は、口を塞ぐキスで進んでいく

個室の奥には、ずっと待機室が見えています。ソファで女の子がくつろいでいる。つまり、こちらの声も向こうに届くかもしれない。彼女は胸を触られている途中で「見えてないかな?」とつぶやき、「声出すと聞こえちゃうから」と声をひそめ、少しして「危なかった」と続けます。
この緊張が、後半のすべての行為に乗ってくる。指を入れれば、動かしちゃダメ、声が出ちゃうから、と口を手で押さえる。張り詰めたこちらの様子を見れば、「手は怒られちゃうかな」と迷ってから、お兄さんも声を出したらバレちゃうからね、と念を押して触れる。添い寝サービスを頼めば「添い寝サービス?」「もちろん」と即答して、横に寝そべってくる。口ですると決めたときも、「絶対内緒ですよ」。
内緒の約束が、もう何回目か分からない。普通なら言葉は回数を重ねるほど軽くなるはずなのに、この作品では逆です。重ねるたびに、二人だけの秘密が分厚くなっていく。
そして、最後まで、と求められた彼女の答えが「嫌じゃないですけど」。少し間を置いて「いいですよ」。条件はひとつだけで、激しくしたら声が出ちゃうから「ゆっくりしてね」「わかりました?」。
ここからの本番は、確かに派手ではありません。ゆっくり動きますね、と言ったとおり騎乗位の動きは穏やかで、対面座位も正常位も、彼女は息を殺したまま。購入者レビューにも、喘ぎ声が少なくて惜しいという声があります。それも分かる。
でも、私はこの抑えた本番に、別の種類の熱を感じました。声が漏れそうになった彼女が「ねえ、声出ちゃうから口で塞いでて」と引き寄せてくるんです。キスが、愛情表現と防音を兼ねている。そのあとも「こうやって塞いでね」と、唇を重ねる理由を彼女のほうから足していく。満員電車でイヤホンから音が漏れていないか気にしたことがある人なら分かるはずです。音を抑えようとするほど、自分の鼓動ばかりが大きく聞こえる。あの感覚が、ずっと続く。
対面座位で顔を寄せたまま「すごい相性いいみたい」とつぶやき、やがて残り時間が気になりはじめると「時間ないから早く」と自分から正常位へ促す。声を抑えた分だけ、腰の動きと表情に全部が出る。最後は「お腹に出していいよ」。叫びではなく、囁きで迎えるフィニッシュです。
最後に:ガラスの向こうの願いが、声になって返ってくる

この作品の前半と後半は、きれいに対になっています。前半の彼女は、窓の向こうでボードに書くことしかできなかった。「たくさん見ていってね」も、指名してほしいという願いも、全部が文字でした。
後半の彼女は、声を出せない部屋の中で、声をひそめて話し続けます。特別ですよ。内緒ですよ。ちょっとだけ。ゆっくりしてね。その一つ一つが、前半のガラスを一枚ずつ取り外していく言葉に聞こえる。
だからこそ、事後の一言が効きます。「気持ちよかったよ」と言い、時間を気にしながら、最後に「また指名してくださいね」。窓の向こうで書いていたお願いが、今度は目の前で、声になって返ってくる。私はこの一言で、前半の焦らしごと、この作品を好きになりました。
派手な喘ぎも、激しい腰使いも、この作品の売りではありません。売りは、桃乃木かなさんがこちらにだけ見せる、声を落とした顔です。大きな声で好きと言われるより、耳元で内緒と言われるほうが効く人なら、きっと分かってもらえるはずです。
観終えたあと、あなたは誰かに、これ内緒ね、と言われるたびに、少しだけ声を落とした彼女の顔を思い出すでしょう。
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