
こんな人に観てほしい:優しい選択ほど、誰かを傷つけると知っている人へ

二人の女性から同時に好かれる。言葉だけなら夢があります。人生で一度くらい、そんな贅沢な悩みを抱えてみたい。そう思うのは自由です。
でも実際に、二人が大切な幼馴染で、お互いの痛みまで分かっていて、それでも自分を好きだと知ったらどうでしょう。たぶん、嬉しいより先に胃が重くなる。
本作を観てほしいのは、誰も悪者にできない三角関係が好きな人です。
まりは、昔のラブレターを捨てた。明確に悪いことをしています。ところが、彼女は開き直らない。自分には一番になる資格がないと思い込み、二番目でいいと頭を下げる。
あいりは、親友の恋を後押しする。こちらは美しい行動に見えます。ところが、祝福した直後、自分もずっと好きだったと告白する。まりを幸せにしてほしいと言いながら、自分の恋だけは消せない。
つまり、どちらを選んでも気持ちよく勝てません。まりを選べば、手紙を受け取れなかったあいりが残る。あいりを選べば、罪を告白してすべてを差し出したまりが残る。三人まとめて都合よく幸せになる逃げ道もない。
選ばれる快感より、選んだあとに残る顔のほうが気になる。そんな面倒な感情に興奮できる人には、かなり深く刺さります。
あらすじ:最後の王様ゲームが、昔の手紙を開ける

出演は高杉麻里さんと七瀬あいりさん。メーカーは変態紳士倶楽部。107分です。
主人公は来週、仕事のために広島へ移ります。引っ越し用の段ボールが積まれた部屋へやって来たのは、幼馴染のまりとあいり。三人で過ごす最後になるかもしれない夜です。
ところが始まりは、びっくりするほど普通です。転勤先の話をして、正月には帰ってくるのかと聞かれて、恋人の有無を探られる。黒ひげ危機一発で騒ぎ、ジェンガを崩し、最後は王様ゲームへ進む。
相手の良いところを言う。恋人つなぎをする。目を合わせる。好きな異性のタイプを話す。頭をなでる。心を込めて大好きと言う。
王様ゲーム、便利すぎます。自分では言えないことを、全部ルールのせいにできる。三人とも笑っているのに、命令が一つ進むたび、幼馴染という安全地帯が少しずつ狭くなっていく。
やがて、あいりが買い物へ出て、まりと二人きりになります。そこでまりが、高校時代の手紙について打ち明ける。主人公があいりへ渡してほしいと預けたラブレターを、まりは捨てていた。二人が付き合うのが怖かった。自分もずっと主人公を好きだったからです。
まりの告白を受け入れたあと、二人は接吻からフェラ、対面座位、背面座位、正常位へ進む。そして、その時間を、戻ってきたあいりが開いた扉から見つめている。
あいりは二人の関係が成立したことを喜び、まりを送り出す。ここで終われば、少し苦い青春恋愛です。
終わりません。
二人きりになったあいりもまた、主人公をずっと好きだったと告げる。大切な親友の幸せを願いながら、自分の恋を一度だけ形にしたいと願う。表向きの答えが出たあとに、本当の選択が始まります。
見どころ1:「二番目でいいから」が抱えている罪悪感

まりが言うんです。
「私ずっと好きだったんだよ」
そして、続ける。
「二番目でいいから」
私はここで、一回止まりました。
普通、告白は一番にしてほしいと言う場面です。自分だけを見てほしい。過去の相手より私を選んでほしい。それが恋愛の欲望でしょう。
まりは逆です。自分であいり宛ての手紙を捨てたから、一番を望む権利まで自分で捨てている。二番目でいいという言葉は、遠慮ではありません。自分に科した刑です。
しかも残酷なのは、主人公がその告白を受け入れること。二番目でいいと頼んだ女性が、その夜は最初に選ばれる。罪悪感で自分を下げたのに、身体を重ねるほど幸福そうになっていく。この矛盾が、ものすごくエロい。
接吻のたびに距離がなくなり、フェラから対面座位へ進む。まりは、離れる前にこちらの匂いも身体も覚えておきたい、自分の全部も忘れないでほしいと繰り返します。背面座位では腰がこちらへ沈み、正常位では抱きしめられることを何度も求める。
性欲を満たしているというより、転勤後の記憶へ自分を焼き付けているんです。
で、開いた扉の向こうには、あいりがいる。
本来ラブレターを受け取るはずだった女性が、手紙を捨てた女性の告白と行為を見届けている。怒鳴らない。割って入らない。ただ見ている。
私はこの視線にやられました。目の前のまりは、大好きだった相手に抱かれて幸福そうです。扉の向こうのあいりは、その幸福を壊さないために黙っている。身体はまりへ反応しているのに、気持ちの一部だけが、ずっと扉のほうへ引っ張られる。
一人を抱きながら、もう一人の失恋を見せられる。こんなに罪悪感と興奮が近い作品、そう多くありません。
見どころ2:「最初で最後でいいから」が壊す友情

まりを送り出したあと、あいりはまず、親友を守る側に立ちます。
「私の大好きな親友だから」
まりを幸せにしてほしい。泣かせないでほしい。ここだけ聞けば、あいりは完全に身を引いたように見えます。
でも、その口で言うんです。
「好きなんだよバーカ」
強い。可愛い。遅い。全部同時に来ます。
あいりは、昔の手紙が自分宛てだったと知ったうえで、自分もずっと好きだったと告白する。それでも、まりの恋人を奪う人にはなりたくない。だから帰ろうとする。
主人公に引き止められると、最初はやめてと拒みます。嫌いだからではなく、ここで受け入れたら、親友を祝福したばかりの自分を壊してしまうように見える。
それでも感情が崩れて、条件を自分から言い直す。
「今日だけ私のこと見てほしい」
「でも我慢できないよ」
そして、決定打。
「最初で最後でいいから」
「今だけたくさん愛してほしい」
まりは二番目でいいと言った。あいりは最初で最後でいいと言う。
本来、手紙を受け取るはずだったあいりのほうが、一度きりをお願いするんです。順番が全部ねじれている。だから刺さる。
ここからのあいりは、別れの記念として静かに抱かれるだけではありません。手をつなぎ、接吻を重ね、フェラ、対面座位、後背位へ進む。そして、もっと顔を見たいと最後は正常位を求める。
一夜だけの相手が、いちばん恋人らしいことを求めてくる。
これがたまらないんですよ。
最初で最後と言いながら、身体は次を欲しがっている。忘れるための行為と言いながら、忘れられない感触を増やしている。あいりが気持ちよくなるほど、こちらはこの夜が終わることを喜べなくなります。
エロい。でも、終わってほしくない。終わらなければ、まりを裏切り続ける。終われば、あいりの恋が終わる。
どちらへ転んでも苦しい。その苦しさが、正常位であいりがこちらの顔を求めるたび、胸の奥へ重く乗ってきます。
最後に:「吹っ切れた」が、いちばん吹っ切れていない

最後に、あいりは言います。
「吹っ切れた」
これで前へ進める。まりの幸せを応援できる。自分の恋は、この夜で終わった。そういう意味にしたいんだと思います。
ところが、その直後に、これから先も主人公と一緒にいられることはあるのかと尋ねる。
吹っ切れていません。全然。
人は本当に終わった恋について、未来の再会を確認しません。もう大丈夫と言った直後に、次はいつ会えるのかと聞いてしまう。送らないと決めたメッセージを、下書きから消せない。あいりの最後の問いは、あの感じです。
そして、まりも救われ切っていません。彼女は主人公と結ばれたけれど、その始まりには、捨てた手紙と親友の我慢がある。これから幸福になるたび、あいりの顔を思い出す可能性がある。
本作は、どちらが正解かを教えてくれません。
ただ、選択には、選ばなかった側の人生も付いてくると突きつけてくる。
観終えたあと、あなたはたぶん、まりとあいりのどちらが好きかを考えます。でも、その次にもっと嫌な問いが来る。
好きなほうを選ぶ勇気と、選ばなかった人の痛みを引き受ける覚悟は、同じものなのか。
答えは出ません。
だから、この夜が終わっても、三人の青春だけが終わらないんです。
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