
こんな人に観てほしい:わざと、やらなかったことがある人

頼まれた小さな用事を、うっかりではなく、わざとやらなかったことはありませんか。
返すはずの返事を、既読にしたまま出さなかった。声をかけるべきタイミングで黙っていた。誰も傷つかないし、誰も気づかない。はずだった。ところが相手はちゃんと気づいていて、しかも怒らない。ただ、覚えている。——この居心地の悪さに心当たりがある人は、この作品の冒頭でいきなり冷や汗をかくことになります。
渚あいり演じる妹は、学校から帰ってきて、レポートを開いたままのこちらに軽く挨拶をして、それからソファで寝る前に頼んでいきます。「あのさ、1時間後に起こしてくれない?」「今日ソシャゲの大事なイベントあって、絶対起きないとなんだよね」。念押しは一度では終わりません。「絶対起こしてね」「マジで絶対起こしてね」「起こしてくんなかったら許さないからね」。そして、「じゃ、おやすみー」。
ここまで言われて、起こさなかったんですよ。……起こせるわけがなかった、と言うべきかもしれませんが。
あらすじ:一時間経っても、起こさなかった

そして一時間が経ちます。
目の前にいるのは、ソファの上で寝返りを打つ妹です。ベージュのチェックのミニスカートは寝返りのたびに上へずり上がって、白いニーハイソックスとの間の素肌が、隠す素振りもなくこちらを向いている。タイトルにわざわざ【絶対領域×ニーハイ】と掲げてあるのは伊達ではなくて、この作品はまず、その一点だけで数分間こちらを試してきます。
起こせばいいんです。手を伸ばして肩を叩けば、それで全部終わる。でも起こさない。
やがて彼女が目を開けます。「お兄ちゃん今何時?」。そして、その手にはスマホが握られている。
「ねぇ、今絶対起こさないで見てたでしょ」「え?見てない?」「でも、お兄ちゃんのしてるとこカメラで撮っちゃった」
寝ていたのは演技でした。起こさずに眺めていたあいだの顔ごと、証拠が残っている。おまけに「でも、起こしてくれなかったからソシャゲの時間間に合わないんだよね」と、失われた一時間の責任まで上乗せされる。この家の力関係は、ここで完全に決まります。
それでも彼女は怒鳴らないし、責め立てもしない。かわりに、こう訊いてくるんです。
「ねぇ、どうしよっか」
見どころ1:「ちょっと嫌だけど、嗅がしてあげる」

そこからしばらくは、まあ、教科書どおりのメスガキが続きます。座り直して脚を開き、「じゃあ、こっちでいっぱい見て?」「もっと近くで見てもいいよ?」と手招きしておいて、近づけば匂いを嗅ぐなと笑い、ニーハイの脚で顔を挟んでくる。「変態お兄ちゃんだねー、ほんとに」。
問題は、その次でした。散々こちらの視線を観察したあとで、彼女がふと気づくんです。
「もしかしてお兄ちゃん、足とか好きなの?」
見抜かれた。しかも、ここからの詰め方が本当に嫌らしい。彼女はすぐには与えてくれません。まず確認から入ります。足でどうしてほしいのか。くんくんしたいのか。「裏の匂い嗅ぎたいの?」。要求の中身を全部こちらに言わせる形にしておいて、そのうえで、少し考えるふりをする。
そして、この一言です。
「ちょっと嫌だけど、嗅がしてあげる」
——「ちょっと嫌だけど」ですよ。嫌ならやらなくていいんです。でもやる。しかも「あげる」。施しなんですこれは。差し出された足裏が視界を丸ごと塞いで、鼻先から下が白い編み地で埋まった瞬間、息の吸い方まであちらに握られます。「本当に嗅ぐの?」「え、嗅いだの?」「もっと嗅ぎたい?」。こちらの反応は全部、実況されます。
やがて彼女は両脚を伸ばして、足で扱き始めます。ここで出るのがこの台詞。
「変な声あげないでよ、面白いから」「静かにして」
笑われているんですよ、こっちは。気持ちよくされながら、その反応を娯楽として消費されている。「足でされてどう?」と感想まで求められて、「なんでピクピクしてんの?」と観察される。そして、こらえきれていないのがバレた瞬間、こう言われます。
「キモいんだけど」「足はおしまいね」
おしまいね、です。こちらの都合は一ミリも勘定に入っていない。この突き放され方の後味が、そのあとずっと喉の奥に残ります。
見どころ2:「いや、私は感じてないよ、別に」

ここで、この作品の本当の芯が顔を出します。
こちらに触れながら「ねえ、どんどん大きくなってくるよー」と実況している最中、彼女の声色が一瞬だけ変わります。
「え、感じてるって?」——「いや、私は感じてないよ、別に」「感じてないってばー」
一度きっぱり否定すれば済む話なのに、二回言うんですよ。この人は。
そして夜になります。もこもこした部屋着に着替えた彼女が、寝室に入ってくる。「お兄ちゃん、まだ起きてたんだ」「この前のこと、お兄ちゃん忘れられないんでしょ?」「お兄ちゃんのこと何でもわかるよ」。相変わらず全部見透かした顔で、また同じように線を引きます。「足だけだからね、今見せてるの」「じゃあパンツ触っちゃダメだよ」「足だったら触ってもいいよ」。ついでに「お母さんたち起きちゃうから、静かにしてよ」と釘まで刺してくる。家族が寝ている家の中で、ルールを決めるのは全部あちらです。
で、その線を最初にまたぐのが誰かというと——彼女なんですよ。
「ねえ、お兄ちゃん」「そろそろ我慢できないな」「言ってる意味分かるでしょ?」
昼にあれだけ言い張った人が、夜には自分から言い出す。服の上から触らせておいて、次は自分でニットの肩をずり下ろして胸を出し、「直接触って」。
ここで効いてくるのが、さっきの線引きです。足だけ、のはずが、服の上から、になり、直接、になる。線はどんどん動いているのに、線を引く人だけが最後まで変わらない。触っていい場所が増えていくのに、自分から一歩進む権利だけは、いつまでもこちらに渡ってこないんですよ。
そこから先、この場面で確認をするのはずっと彼女のほうです。見てもいい? 脱がしてもいい? 触ってもいい? ぜんぶあちらが訊いて、あちらが決める。繋がるときですら、「恥ずかしいから見ないでよ」と言いながら、彼女のほうから跨ってくる。恥ずかしいなら止めればいいのに、上下する動きだけは止まりません。
そして極めつけが、途中でまた口を使い始めたときの理由です。
「お兄ちゃんばっかやっててずるい」「私もやってもいい?」
ずるい、って言うんですよ。この期に及んで不公平を申し立てて、自分から口をつけに来る。あの「感じてないってばー」はどこへ行ったんでしょうか。昼はあれだけ突っぱねておいて、崩れるときは一気に崩れる。この落差こそが、この妹の一番おいしい部分です。
最後に:「二人だけの秘密だよ」

一度出したら終わりだと思うじゃないですか。彼女は終わらせてくれません。事後の感想が「めっちゃ黄色いんだけど」「お兄ちゃん溜めすぎじゃない?」で、その品評が終わらないうちに、次の話が始まります。
「いっぱい満足させたよね」「一回じゃなんか物足りなくない?」「今度はお兄ちゃんが気持ちよくしてよ」
——ここまで自分がやってやったことを確認したうえで、請求書を回してくるんですよ。主導権を譲られたように聞こえますよね。違います。譲る相手も譲るタイミングも、あちらが決めている。「お兄ちゃんの好きにしてもいいよ」と言った直後に「お兄ちゃんお尻好きだもんね」と好みまで先回りされるので、結局こちらは案内された通りに動くことになります。休ませてもらえないまま、そのまま二度目へ持っていかれる。ここまで来ると、もう抵抗する気力すら残っていません。
そして、終わったあとの一言。
「もうこれでお兄ちゃん、私に逆らえないね」「気持ちよかった?」「これからも一緒に楽しいことしようねお兄ちゃん」「二人だけの秘密だよ」
——秘密、ですよ。脅しじゃないんです。共犯なんです。スマホに残った証拠から始まった関係が、最後には「二人だけの秘密」と呼び直されている。この一言に着地させるために、あの一時間をわざと眠ったふりで空けたんじゃないかとすら思えてきます。
観終えたあなたはきっと、次に誰かから「絶対起こしてね」と頼まれたとき、うなずく前に一瞬だけ間が空きます。起こしたほうがいいに決まっている。決まっているのに間が空くのは、起こさなかった先に何があるかを、もう知ってしまっているからです。
